ほぐれる甘さ|ぜんざいで温まる和菓子の午後

午後の光がやわらぐころ、台所に湯気が立ちました。
お椀の中で、ぜんざいがことこと。小豆の香りが、部屋の温度を一度上げます。
ひと口で、肩の力がゆるむ。和菓子って、そういう力があります。

甘いだけじゃありません。
小豆のほろりとした食感。奥にある塩気。
そのバランスが、気持ちの真ん中をそっと整える。
忙しい日ほど、こういうやさしさが効きます。

一緒に飲むお茶は、すっきりめの煎茶を。
甘さを曖昧にせず、後味をきれいにまとめてくれる。
ほうじ茶なら、香りがふわり。夜の時間に似合います。
和菓子とお茶。言葉のいらない相棒です。

ぜんざいは、からだの中から温めてくれます。
冷えた指先が、ゆっくりと戻ってくる感じ。
深呼吸がしやすくなる。
午後三時、自分をいたわるための一杯。
それだけで、残りの時間が軽くなります。

いけがみの和菓子づくりは、素材を大切にします。
小豆の声、お米の声、砂糖の表情。
火加減と手の力で、そのまま引き出すだけ。
飾らないから、まっすぐ伝わる。
ぜんざいも同じです。
やさしい甘さの奥に、芯を一本。

季節が変われば、似合い方も変わります。
春は窓辺で、風と一緒に。
夏は冷やしぜんざいで涼しく。
秋は香ばしい焼き餅を落として。
冬は湯気ごといただくごちそうに。
行事の日には赤飯、うれしい知らせには大福。
気分を変えたい日はどら焼きや最中、
つるんと涼みたい日はわらび餅や水ようかん。
和菓子の仲間たちが、暮らしの音に合わせて寄り添います。
そして真ん中には、いつでも戻れる“ぜんざい”があります。

もし誰かの顔が浮かんだら、もう一椀。
分け合うと、甘さの記憶は深くなる。
「おいしいね」が、部屋の空気をやわらかくします。